Web3.0から見たメタバース

POINT ここではWeb3.0の観点から見たメタバースについて解説します。
前記事では、アクシーインフィニティ(以下、アクシー)のトークン経済圏を参考に、dAppsゲームが新しい経済圏を形成しつつあることを紹介しました。ここでは「GameFi(ゲームファイ)」「NFT」と並ぶバズワードとなった「メタバース」を、Web3.0の観点から見ていきます。

1.Web3.0=メタバース?

 同時期に盛り上がり始めたWeb3.0とメタバース2021年末頃、フェイスブックがメタに社名を変更したことで、「メタバース」がバズワードになりました。ちょうど同時期に、ブロックチェーン業界がWeb3.0にリブランディングされ始めたため、定義の曖昧なもの同士が一緒に語られることが多くありました。なかには「Web3.0=メタバース」といった論調の記事も見られ、その影響を受けてメタバースをうたい文句とするプロジェクトのNFTやFTの価値が高騰したのです。
※時価総額2,000 万ドル未満のプロジェクトを除く
出典:CRYPTORANK「TOP 10 Metaverse Projects by fully diluted market cap」を参考に作成
 
さまざまな分野からのメタバースへの参入
 Web3.0から見たメタバースとしては、「ディセントラランド」(「dAppsゲームの発展とWeb3.0の影響」参照)や「ザ・サンドボックス」などが有名です。バーチャル空間上の土地がNFT化され、高額で取引されています。アクシーもゲーム上の土地を販売しているので、メタバース銘柄に数えられることがあります。「アクシーがメタバース?」という点には疑問が残りますが、各銘柄はトレンドに乗って高い時価総額を付けているのが現状です。日本ではゲーム開発大手のバンダイナムコグループが、メタバース参入への150億円の投資を発表しています。
 当時はメタバースをうたえば株式やトークンの価値が上がり、時価総額が伸びていきました。そうして、さまざまな分野で「メタバース」が連呼されたので、メタバースという言葉の定義や捉え方について激論が巻き起こったのです。
 

2.メタバースの解釈と世界観

さまざまな解釈を生むメタバース
 筆者も当時、上司や先輩などから「これからはメタバースだ!」と聞きかじっただけの発言をされ、困った経験があります。メタバースという言葉が一人歩きをしすぎたせいで、あらゆるものがメタバースに紐づけされ、さまざまなミームが生まれました。
 メタバースについて聞かれたときは、「どのメタバースか」を確認することが重要です。右表はメタバースを揶揄するミーム画像です。上のほうにはそれっぽい言葉が並んでいますが、下のほうにはポテトもあり、そんなメタバースは存在しません。「どのメタバースについての話か」を聞くことで、「共通言語が何であるか」を確認でき、無駄な行き違いを減らすことができます。
出典: Forbes「This Week In XR: You Say Potato, I Say Metaverse」のWebページより
 
  メタバースという言葉は、さまざまな要素を含むので、メタバースの話は認識のズレが発生しやすくなります。次図はメタバースを含む文章に出てくる言葉を分析(共起語分析)した結果ですが、右上のWeb3.0や左下のVRの文脈などで、人によって連想するものが異なります
 
出典:Banjo_Kanna 氏のTwitter を参考に作成
 
理想とするメタバースの世界
 メタバースは、映画『レディ・プレイヤー1』(「dAppsゲームの発展とWeb3.0の影響」参照)のような世界が理想であると、筆者は想像しています。現実と共通の通貨や希少なアイテムなどが使える世界にはブロックチェーン技術が必要ですし、圧倒的な没入感を提供するVR技術なども必要になります。
 『レディ・プレイヤー1』の世界は、さまざまな要素技術の複合により実現するものです。ただし、現時点ではそれぞれの市場ごとに最先端の技術や実現可能なレベルなどが異なるので、現在は市場ごとに別々の手段でその実現を目指しているような肌感があります。いずれこれらの要素技術は混ざり合い、理想が実現されるものと思いますが、現時点では各市場で分断されているのが実情です。
 Web3.0以外の観点からのメタバースに関しては本書の主旨と異なるため、ここではブロックチェーンやWeb3.0の観点から見たメタバースのみ取り扱います。また、以降で取り上げる内容はあくまで筆者個人の考えに基づくもので、Web3.0市場全体の主張というわけではありません。この分野の説明にはまだまだ定まったものがありませんので、「こういう考え方もある」という程度に読んでください。
 

1.参入ハードルと匿名性のあるメタバース

メタバースの捉え方の違い
 「メタバース」と聞くと、「VRゴーグルを使って入るバーチャル空間」というイメージがあるでしょう。しかし、Web3.0が実現しようとしているメタバースは、バーチャル空間を前提に考えていません。筆者の知る限り、Web3.0市場におけるメタバースは、メタバースの世界そのものというより、「コミュニケーション手段の拡張方法の1つ」と捉えられている感覚があります。
 つまり、Web3.0市場で語られるメタバースは、VR市場などで語られるものに比べて、含まれる範囲が広いのです。そのため、「ツイッターもメタバース」「NFTもメタバース」などの説明が飛び交うことがあり、「理解して発言しているのか」ということも相まって、発言者の意図が解読困難な状態になることがあります。
 
企業が提供するメタバースの中央集権性
 メタバースの捉え方に違いが生まれる理由は、ロックイン(乗り換えの困難さ)を極度に嫌うWeb3.0の精神性にあると考えられます。Web2.0で苦い思いをしてきた人たちは、自分のデータを所有できることを喜び、Web2.0の中央集権性を変革する「分散性」を重視します。たとえば、「メタが提供するメタバースを利用する」ということは「メタに個人情報を渡し、その空間で入手した資産の生殺与奪権をメタに預ける」ということと同義です。メタバースを利用すればするほど、その空間からの離脱が難しくなり、ロックインの度合いが高まるという構造になっています。そのため、Web3.0に傾倒する人ほど、企業が提供するメタバースを拒絶する傾向にあり、メタバースにも分散性を求めます。
 また、メタバース上の土地がNFT化されて売買されていますが、バーチャル空間なのですから、本来「土地」に縛られる必要はないはずです。メタバースは、「超越した」「高次の」という意味の「meta」と、「宇宙」という意味の「universe」を組み合わせた造語です。リアルを超えた高次元の宇宙を実現しようとしているメタバースが、本来縛られる必要のない「土地」を基本とした空間設計になっているのは不思議な現象です。ユーザーがメタバースに求めているのは「リアル」ではなく「リアリティ」でしょう。
 『機動戦士ガンダム』シリーズでは、宇宙空間に適応したニュータイプの人々が、地球に住む人々を「重力に魂を引かれた人々」と形容しました。バーチャル空間でも、「土地」に魂を引かれたままの人々を見て、「それがメタバースなのか」と揶揄する声があるのも事実です。土地を提供するのはメタバースを運営するプラットフォームですから、Web3.0が変革したい中央集権性がここにも登場します。そのため、Web3.0に傾倒する人たちはVR系メタバースを批判対象とするわけです。
 こういった現象は、スマートフォンが登場したときにもありました。最初期のスマホアプリは、パソコン上のソフトウェアをそのまま載せ替えたようなものが多く、まだスマホアプリの正解がわからずに試行錯誤していました。今後、メタバースが普及していくにつれ、メタバースでしか体験できないUI/UXが開発されていくでしょう。
 
メタバースのメインはコミュニケーション
 人々はメタバース上に自分の土地があるからアクセスしているわけではありません。そこに魅力的なコンテンツがあるからアクセスしているのです。そして、そのコンテンツのメインとなるものは「人間同士のコミュニケーション」です。
 VR系とWeb3.0系のメタバースで共通しているのは、「高い参入ハードル」と「匿名性があること」です。VR系ではVRゴーグルが、Web3.0系ではNFTが必要になり、その場(メタバース)にいること自体が、それぞれの領域における最低限のリテラシーを備えていることを示します。そのリテラシーにより、コミュニケーションのステップを省略し、アバターやNFTが同類を見つけるマッチング装置として機能します。そして、そこに匿名性が加わることで、リアルから解き放たれ、居心地のよいコミュニティが形成されるのです。つまり、メタバースは人間同士がコミュニケーションを行う新しい手段と捉えることができます。「人間が集まる ところに生まれるのがメタバース」と考えることもできるので、Web3.0系メタバースは広い範囲で捉えられるのです。まとめると、次のようになります。
 
・Web3.0に傾倒する人ほどロックインを嫌う傾向がある
・バーチャル空間なのだから、土地に縛られる必要はない
・「土地」ではなく「人」がいる場所がメタバースなのではないか
 
 メタバースにはコンテンツが必要であり、最高のコンテンツはコミュニケーションです。コミュニケーションが行われる空間は、そのときの気分や、集まっている人の属性などにより、適切に設定されていくべきです。
 

4.Web3.0系メタバースはNFTから誕生

コミュニティ形成に必要な文化(コンテンツ)
 Web3.0系メタバースはVR系と異なり、トークンによる経済圏を持っています。「人が集まるところに生まれるのがメタバース」という考え方を示しましたが、トークンによるインセンティブで人を集めることはできますが、定着させるためには「文化」が必要になります。
 たとえば、ドバイやドーハといった湾岸都市は、100年前は何の変哲もない都市でした。これらの都市には長年にわたる「文化」がないので、滞在する目的がありません。そこで、税金を安く抑えて国外から企業を誘致することで、都市を支える先進国の資本家が訪れるインセンティブを提供しました。しかし、資本家へのインセンティブは税金から捻出されるので、税金の安さが魅力の都市ではインセンティブを捻出できず、資本家が定着しません。「金の切れ目が縁の切れ目」というように、忠実な市民になることはなく、すぐにいなくなってしまいます。
 現在の都市は、誘致された企業が利益を上げやすいよう最適化された結果、人口増加を果たし、定着した人々が休日を楽しむための娯楽が必要になりました。大人が好む野球のプロリーグや、お金持ちが好む現代アートはその一例です。そして、その娯楽は共通の話題(コンテンツ)となり、その都市に定着し続ける目的になります。「文化」というと大仰ですが、「好きなもの」がそこにしかなければ都市からは離れたくなくなるものです。
 
NFTがコミュニティを形成してメタバース化
 これをモデルとして考えると、メタバースがNFTの価値を爆発的に高める基盤となることは極めて明白です。メタバース化するデジタル経済都市においては、NFTを展示する空間がリアルの美術館と同じ役割を果たしていくことになるでしょう。すでにNFT周辺には、さまざまなコミュニティが形成されており、「都市」はなくても「文化」が確実に積み上げられていると感じます。
 今までは都市ができてから共通言語となるコンテンツが生まれ、その結果としてコミュニティが形成され、都市への帰属意識が高まるという流れでした。これからは、NFTが共通言語(コンテンツ)となり、コミュニティが形成され、それが都市(メタバース)になっていく可能性があります(次図)。現在、流通しているNFTアートには美しいものもありますが、なかには創造性を欠いたものもあるでしょう。NFTの価格だけを語り合うようなメタバースプロジェクトもありますが、それらのノイズに惑わされず、NFTアートの所有により得られるコミュニティへの帰属意識を高め続けてください。
 
 
 Web3.0系メタバースに求められるものは「人間同士のつながり」です。そのつながりは、ブロックチェーン上に記録され、自分のトークングラフ(「NFTの新たな価値:Flexな気分を体験する」参照)に蓄積されます。そのトークングラフは、Web3.0上に遍在するさまざまなメタバースで再利用可能になるはずです。中央集権型の運営者にデータを所有され、あるメタバースでは利用できるものの、別のメタバースでは0からの蓄積が必要といったことは起こらないでしょう。
 

5.分散型メタバースの実現性

資本力のある中央集権型メタバースの発展
 Web3.0系メタバースの実情を説明してきましたが、実現するのはまだまだ先のことです。完全に分散されたバーチャル空間で、暗号資産を使って買い物をするのは数十年ほど先になるでしょう。
 直近の数年であれば、VR系メタバースの発展のほうが早いと予想されます。メタはこの領域に本気で取り組んでいますし、世界中のさまざまな企業がメタバース参入を表明しています。しばらくは企業が運営する中央集権型メタバースが一般的なものとなることは明白です。
 分散型メタバースの重要性が認識されるのは、ケンブリッジ・アナリティカのような事件が露呈したときです。この事件は、イギリス企業ケンブリッジ・アナリティカがフェイスブックから収集したデータの一部を政治的に利用し、米国大統領選挙を有利に 進めようとしたものです。自分の個人情報やプライバシー情報などはSNS運営企業が所有しているので、それらを利用して投票先(個人の意見)が誘導されてしまう可能性があるというのは恐ろしいことです。
 Webサービスは現在、主にパソコンやスマートフォンを介して利用していますが、これがVRゴーグルを介してバーチャル空間で利用するようになると、その空間内におけるすべての行動がトラッキングや分析の対象になります。こうなると、企業はそのデータを使って利益を最大化しようとするので、Web2.0と同じ構造に陥る可能性があります。あくまで可能性の話ですが、メタバースやコミュニケーション手段が国や企業に支配されることになりかねません。
 
分散型メタバースの需要
 Web3.0について知れば知るほど、中央集権的なものに疑念を抱くようになるものです。そして、そのコミュニティのレベルが高ければ高いほど、その思想は先鋭化されていき、分散を強制しようとする「Web3.0マフィア」が誕生します。
 しかし、中央集権的なものが「悪」というわけではありません。むしろ、これまで便利な側面が多かったことは事実です。分散は重要なムーブメントですが、すべての人が自分の暗号資産やNFTを完璧に管理できるとは思えません。
 Web3.0に傾倒する人は、分散型メタバースが「すべての人に望まれるものか」を考え直すべきです。Web3.0系メタバースのプロジェクトで頻繁に話題にのぼるディセントラランドやザ・サンドボックスも、バーチャル空間では中央集権的側面が強いです。
 分散か中央集権かの論争は、0か1かではなく、程度の問題です。ユーザーがどちらかを選択するというものではなく、分散の度合いを自分で決められるような設計になっていくことでしょう。人間が最終的に「どのレベルの分散性を持ったメタバースを許容するか」は未知数です。現実的な落としどころを探っていくのが、この数年の課題になると感じています。
 
NFTの土地は買うべきか
 よく聞かれることですが、あまりお勧めしていません。理由は先に述べたとおり、NFTが起点となってコミュニティと都市が形成されるのであり、土地があるからコミュニティが形成されるわけではないからです。もしかしたら事例はあるかもしれませんが、少なくとも世界的なムーブメントではありません。
 また、ディセントラランドやザ・サンドボックスの土地は、発行数が決められたNFTとして販売されていますが、そもそもその希少性を決めたのは運営者です。バーチャル空間なので、あとから増やそうと思えばいくらでも増やせます。加えて、「土地に魂を引かれたまま」のメタバースが真の答えではないように思えるからです。
 筆者は「メタバースに土地を持っているんだ!」とフレックス(「NFTの新たな価値:Flexな気分を体験する」参照)な気分になるためだけに、土地のNFTを所有しています。フレックスな価値を感じるか、その経済圏が中長期的に伸びると確信できるかは、よく調べたほうがよいでしょう。
 
知識不足や誤解によるメタバースの対立
 SNSなどでは、VR系メタバースを推すユーザーと、Web3.0系を推すユーザーが対立している場面を見かけることがあります。Web3.0系の対比として、VR系が「Web2.0系メタバース」と記述されることがありますが、Web3.0系が発展してもVR系がなくなるというものではありません。メタバースはコミュニケーション手段の拡張方法の1つであり、「NFTを介した新しいコミュニケーションが増えただけ」と考えるのが適切でしょう。
 また、NFTはメタバースの起点になる可能性がありますが、メタバースにNFTや暗号資産は必須ではありません。具体的な事例としては、NFT事業者自身のポジショントークにより、「NFTはメタバースに必須」などと語ったことが拡散され、対立の溝が深まっているように感じます。全体としては、メタバースについての知識不足や誤解による、下記のループを続けている印象です。
1.NFT事業者が間違った知識や漠然とした定義のポジショントークを流す
2.メタバースとNFTをごちゃ混ぜにした投稿が乱立する
3.「NFTはメタバースに必須」といった極論が展開される
4.もともとメタバースに住んでいたVR系ユーザーが怒る
5.「NFTはダメ」といった広範囲を対象にしたバッシングが相次ぐ
6.広範囲を対象にしたバッシングによりWeb3.0系ユーザーも怒る
 メタバースやNFTに関する話題は誤解が多いので、過度なポジショントークは控えましょう。
 

6.メタバースは人類のDX

  今後、メタバースを実現するための技術が発展すると、バーチャル空間に没入できる人が増えていくことが予想されます。ユーチューブのキャッチコピーに「好きなことで生きていく」というものがありますが、「○○ to Earn」が誕生したことで、メタバース内にも経済圏が生まれることになります。
 これまでのメタバースは、仕事終わりの余暇時間などに訪れるものでしたが、トークンによる経済圏が付与されることで、メタバースで労働を行うようになるでしょう。これは衝撃的な変化であり、メタバースで消費する時間が爆発的に増えることにつながります。さらに近い将来、人類はメタバースに住むこともできるようになるでしょう。メタバースは人類のDXともいえます。
 現在、人類がメタバースで生活することに対して、まだ明確なイメージはできていません。しかし数十年後、人類の歴史を研究したとき、「人類はデジタル上に存在する生物であり、メタバース以前の歴史は例外であった」と判断される日が来るかもしれません。
 
 
 

まとめ

  • フェイスブックがメタへ社名を変更したことでメタバースブームに火がつき、Web3.0 のメタバース銘柄の時価総額が高騰している
  • メタバースには多くの要素が含まれ、認識を整理して話す必要がある
  • Web3.0系メタバースは、バーチャル空間のみを指すのではなく、新しいコミュニケーション手段の1つと捉えるべき
  • Web3.0 系メタバースではNFTが文化をつくり、文化が都市を形成する
  • トークン経済圏とメタバースが融合することで、メタバースに住めるようになり、人類のDX化が進む