dAppsの代表といえるdAppsゲームの発展

POINT ここでは分散型アプリケーションであるdApps(ダップス)について解説します。
前記事のシリーズではNFTについて解説しました。ここからは分散型アプリケーションであるdAppsについて解説します。まずはdAppsの一領域であるdAppsゲームを取り上げ、dAppsゲームがWeb3.0に与えている影響や、dAppsゲームの歴史について概観していきます。

1.分散型アプリケーションであるdApps

dAppsの特徴と定義
 「dApps(ダップス)」とは、分散型アプリケーションのことです。dAppsの特徴としては、次のようなものが挙げられます。

・ブロックチェーン技術を使ったオープンソースのアプリケーション
・管理・運営する中央管理者は存在せず、分散的に管理される
・ トークンとスマートコントラクト(スマコン)によりオペレーション(決済や手続きなど)が自動で実行される
・アップデートの際にユーザーが合意形成を行うガバナンスの仕組みがある

 dAppsは中央集権的ではなく、分散的に機能し続けるアプリケーションです。広義にはビットコインやユニスワップのようなディーファイ、分散型ステーブルコインなどを指し、狭義にはNFTなどのトークンを組み込んだゲームなどのアプリケーションを指します。後者は「dAppsゲーム」や「GameFi(ゲームファイ)」などとも呼ばれます。
 分散といっても、開発された瞬間から分散させることは不可能です。最初はdApps開発者が存在し、少なからず中央集権的な部分が残っているので、分散には度合いがあります。そのため、「dApps=分散を目指しているアプリケーション」という程度に捉えておくとよいでしょう。
 参考までに、2022年4月時点では、米国のSEC(米国証券取引委員会)が「人が動かしているアプリケーションではなく、完全に分散している」と認めるものは、ビットコインとイーサリアムだけです。
 
ユーザーが気軽に体験できるdApps
 dAppsでイメージしやすいものはゲームでしょう。dAppsはアプリケーションなので、スマホアプリなどと同じレイヤーに位置し、ユーザーが最も触れやすいWeb3.0サービスです(過去記事の図参照)。ディーファイやステーブルコインなどは金融の知識がなければ触ることができませんが、ゲームであれば誰でも気軽に触って遊べます。そのため、ゲームからWeb3.0に参入する人も多く、ユーザー数が多いという特徴があります。 
 

2.Web3.0の入り口となるGameFi

GameFiへのリブランディング
 2021年以前、FTやNFTの仕組みを取り入れたゲームは「dAppsゲーム」「NFTゲーム」「ブロックチェーンゲーム」などと呼ばれていました。それらは、ブロックチェーンがWeb3.0にリブランディングされたことに合わせ、「GameFi(ゲームファイ)」と呼ばれるようになりました。これは、誰かがリブランディングしたわけではなく、社会的にそう呼ぶ風潮になったという程度の変化です。
 GameFiは「Game(ゲーム)」と「Finance(金融)」を組み合わせた造語です。ゲームを遊びながらお金を稼ぐ「Play to Earn(プレイトゥアーン)」(参考記事:「Web3.0の必要性、「データ所有」の概念とWeb2.0の欠陥」「NFT市場の規模とトッププロジェクトの特徴」)という特徴により、新しいお金の稼ぎ方として話題になりました。
 
GameFiの直近の実績
 ゲームの需要があることで、dAppsで使われるNFTやトークンの取引量が増えるため、まずはNFT取引量を見てみましょう。イーサリアム上のデータを可視化するDappRadar(ダップレーダー)の、2022年Q1(第1四半期)レポートによると、NFT取引量は約120億ドル(1.6兆円)で、2021年Q4(第4四半期)から横ばいの年間6兆円ペースで成長しています。ディーファイは2021年Q1に比べて8%ほど減少したものの、ディーファイ市場は約2,140億ドルのTVL(書籍第4章参照)を保有しています
 ロシアのウクライナ侵攻による経済危機においても、dApps市場では1日238万件のユニークユーザーの接続が確認されており、その半分がゲーム関連とのデータが出ています。特にWeb3.0では、ゲーム系プロジェクトへの投資が加熱しており、2022年Q1で約25億ドル(3,300億円)以上が投資されています。
 そもそもWeb3.0とゲームは相性のよい領域です。ゲーム内にはすでに、ゲーム内通貨やギルド、アイテムなどの経済圏が存在しており、ユーザーはそれらに触れてきているので、トークンを組み込んだGameFiにも違和感なく参入できます。ゲームであれば、複雑なルールを理解したりインセンティブ設計を把握したりするのは普通のことです。Web3.0の複雑なUI/UXも、ゲームの要素を組み込むことで、ユーザーはゲーム感覚でDeFiの仕組みを知ったり、新しい技術のリテラシーを高めたりすることができます。GameFiがWeb3.0の入り口になり、新規ユーザーへの学習機会を提供しているのです。これがゲームの利点です。
 
GameFiの金融面でのメリット
 続いて、Finance(金融)面のメリットです。具体的には、ゲーム内のキャラクターを貸し出して手数料を取ったり、ゲーム内でトークンを稼ぎ、それを売って収益化したりすることが可能になりました。たとえば、GameFiの1つである「アクシーインフィニティ」(「NFT市場の規模とトッププロジェクトの特徴」参照)は、自分のNFTを他人に貸し出す「スカラーシップ」という機能を実装し、貸主と借主の両者にメリットのある仕組みを構築しました。このスカラーシップにより、借主は借りたNFTを使い、ゲーム内でトークンを稼げます。他方、貸主はNFTを貸して手数料を取ることができます。
 このメリットにより、1人で100人以上のスカラー(借主)を抱えるアクシー富豪も現れたほどです。さらに、アクシーユーザーの4分の1が銀行口座を持っていないというデータもあり、GameFiはこれまで金融に縁がなかったユーザー層を獲得することにも寄与しています。
 GameFiにより、ゲーム内にトークンを組み込み、ユーザー間で経済を循環させ、コミュニティを拡大させていったのがアクシーインフィニティ―です。その拡大の速さはすさまじく、アクシーインフィニティの開発元であるスカイメイビスが発行する暗号資産「AXS」の時価総額は、2021年10月時点で約4兆円になりました。これを世界的なゲーム会社の時価総額と比較すると、世界第5位の金額にあたります。GameFiがたった数年でこの規模にまで拡大したことが、世界に衝撃を与えたのです。  アクシーインフィニテが誕生した2018年頃、スカイメイビスはわざわざ日本で交流イベントを開催し、ゲーム内のキャラクターをビンゴの景品として配っていました。それがたった3年で世界的な大企業に成長し、ゲームで遊ぶ人が増え、需要が伸びたことで、景品になっていた初期のキャラクターの価値は数百万円に高騰しています。Web3.0の成長の早さを物語るエピソードです。
 ※Axie Infinity は暗号資産「AXS」の希釈後時価総額であり、それ以外は株式の時価総額
出典:Messari「Video Game Companies by Market Capitalization」をもとに作成
 

3.dAppsゲームの歴史

「 1,300万円のデジタル猫」の登場
 アクシーインフィニティについては次節で詳しく取り扱いますが、その前にdAppsゲームがどんな経緯で現在に至っているのか、その歴史を紐解いてみましょう。
 NFTを語るうえで外せない事例に「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」があります。クリプトキティーズはさまざまな姿をしたデジタル猫を収集するゲームで、ゲーム内の猫がNFT化されています。現在のNFTやGameFiの元祖ともいえるプロジェクトです。珍しい柄や特性を持つ猫は価値が高く、OpenSea上で頻繁に取引されました。そして2017年11月、猫が1,300万円で落札されたというニュースが世界を駆け巡りました。
出典:CryptoKittiesのWebサイトより

 筆者は当時、お金を稼ぐ「投機」が中心だった暗号資産にあまり興味が持てませんでしたが、このニュースは衝撃的で、いまだに記憶に残っています。ニュースを見た瞬間、「なぜデジタル猫に1,000万円ほどの価値がつくのか?」と思い、そこからNFTの存在を知り、「世界を変える可能性のある技術」と感じました。その頃、日本はソーシャルゲームの全盛期でしたから、その流れをすべて塗り替えるようなムーブメントが起こることを予見させました。見事に、Web3.0プロトコルの成長サイクル(「ビットコインのプロトコル:改ざんできない仕組みを実現する技術」参照)である「価格高騰」→「興味」→「気づき」→「ファン化」の流れに乗り、ブロックチェーン技術のファンになったわけです。
 なかでも、ゲームで遊ぶことで、ゲーム内のキャラクターやアイテムなどがNFTとして手に入り、それらを育て、売却して稼げる点に筆者は感動しました。ゲーム好きなら誰もが思い描く「ゲームだけをして生活したい」という夢を実現する技術と思えたからです。Web3.0とゲームの相性のよさを実体験で感じました。
 クリプトキティーズの開発チームは、のちにDapper Labs(ダッパーラボ)と名乗り、NBAと提携してNBAトップショット(「アート作品やスポーツ分野でのNFT活用がもたらす変革」参照)を開発し、2021年のNFTブームの火つけ役も担っています。
 
暗号資産バブルの崩壊に伴うdAppsゲームの低迷
 初期のdAppsゲームには、インターネット黎明期のフラッシュ動画感のあるゲームが大量に登場しました。その1つが「イーサエモン(現イーサモン)」です。ポケモンのような見た目のモンスターがNFT化されているゲームで、アクシーインフィニティと同 様、NFTを集めたり、育てて戦わせたりすることができるものです。
 イーサモンは2018年前半に誕生し、dAppsゲーム市場に一大ムーブメントを起こしました。イーサリアム上の取引の大部分をイーサモンが占めるほどの人気と勢いがありましたが、2018年前半といえば暗号資産バブルが崩壊した時期です。これにより、dAppsゲーム内で使われるETHが下落し、dAppsゲーム市場が低迷する「冬の時代」となり、徐々にユーザーは減っていきました。運営会社も資金難により潰れ、2019年6月に開発が頓挫してしまいます。
出典:EthermonのWebサイトより
 
 dAppsゲームが通常のゲームと異なるのは、ゲーム内のキャラクターがNFT化され、データがユーザーの手元に残る点です。イーサモンには熱狂的なファンがいたので、そのファンが運営を引き継ぎ、今はイーサモンとして開発が進められています。運営会社の潰れたゲームが、ファンに引き継がれ、運営が継続されるというのは胸を打つ話です。現在は「Decentraland(ディセントラランド)」のバーチャル空間上で、イーサモンと散歩ができる程度には進化しているようです。これまで2D画面で育ててきたキャラクターと散歩ができるというのは、非常に愛着が湧きます。
 スマホゲームのサービス終了により、今まで課金して育ててきたキャラクターや、集めてきたアイテムなどがすべて無価値になってしまった経験のある方は、この素晴らしさに共感できるのではないでしょうか。NFTであればデジタルアイテムを「真」に所有できるので、それまでの課金が無駄にならず、いつまでも「思い出」として残しておくことができます。  初期のdAppsゲームは、試行錯誤をしながらゲームを開発し、遊んでいたので、非常に混沌としていました。しかし、そんななかでも、NFTを介した遊び方の片鱗は現れていたといえます。
 
フェアなギャンブルゲームが多く誕生
 比較的簡単に開発できて楽しいゲームといえばギャンブルです。dAppsゲームの初期は、ギャンブルゲームが大量に現れ、消えていきました。なかでも「Bitpet(ビットペット)」というゲームには、筆者もとてもハマりました。
 ビットペットはウサギのようなキャラクターをレースに出場させ、レースに勝ったキャラクターの所有者が総取りするという単純なゲームです。キャラクターのかわいさとルールの明快さにより、多くの人が遊んでいました。何がよかったかというと、キャラクターのステータスとレース結果がブロックチェーン上に記録され、改ざん不能な状態で公開されていたことです。これにより、「チートキャラをつくって勝つ」といったことができなくなります。
 dAppsゲームは、ブロックチェーンにより公平性と透明性が担保されていれば、「努力すれば勝てる」ことが証明されているのが特徴です。ちょうどその頃、ソーシャルゲームなどでは、ゲーム運営者の理不尽なステータス変更や、ガチャ排出率の虚偽などが露見する事例が多くあったので、筆者にはそのフェアな特徴が非常に魅力的に見えました。ブロックチェーン上のデータを分析すると、レースに勝つために最適なパラメータを導くことができます。そして、データ分析を深めるほど、勝ちやすくなる点が「フェアなゲーム」といえる所ゆえん以です。このdAppsゲームでの気づきを通して、ブロックチェーンの特性を「言葉」ではなく「心」で理解できました。知識としての理解より、体験に勝る学びはありません。琴線に触れるものがあれば、ぜひ触ってみることをお勧めします。
 
NFT前売りなどによる詐欺の横行
 ただし、ギャンブルと詐欺は紙一重です。当時のdAppsゲームのユーザーがあまりに簡単にETHを支払うので、その資金を狙った詐欺プロジェクトが横行しました。詐欺プロジェクトのことを「スキャム」、集めた資金をゲーム運営者が持ち逃げすることを「ラグプル」などと呼びます。
 当時は「プレセール詐欺」が多く発生しました。プレセール詐欺とは、豪華で美麗なティザーサイトや動画だけを先につくって期待感をあおり、その後、ゲーム内で使えるレアアイテムなどのNFTを売り出して、そこで集めた資金をゲーム運営者が持ち逃げする詐欺のことです。仮にゲーム運営者が、詐欺目的ではなく、きちんとゲームを開発しようとしていても、開発前にNFTを売るだけで数億円の資金が手に入れば、その後のゲーム開発に対するインセンティブは失われます。目の前に大金があるのに、わざわざ面倒なゲーム開発を行う必要はありません。
 これは、トークンを発行して資金調達を行う「ICO」(「株式とトークン:それぞれの資産の特徴比較」参照)にも同じ構造があります。Web3.0では、トークンを発行することで簡単に資金調達ができてしまう側面があります。したがって、まだリリースされていないdAppsゲームのNFTや、DeFiが発行するトークンなどは購入しないほうが懸命です。詐欺にあわないようにするために、Web3.0では過去の活動に基づいて資金を支払う「レトロアクティブ」(「NFTの新たな価値:Flexな気分を体験する」参照)が基本になっています。
 当時、筆者が購入したNFTのなかで、まだ価値を保っているものはアクシーインフィニティのキャラクターのみです。そのほかのNFTの多くは電子ゴミとなりました。その頃にかなり多くのゲームで遊んだ結果なので、プロジェクトが生き残る確率は相当低かったと想定されます。
 2022年代はアクシーインフィニティの成功により、GameFi開発の機運が高まっています。2018年当初と同じことが繰り返される可能性もありますので、参入の際には注意が必要です。
 
国産dAppsゲームの発展
 日本で開発されたdAppsゲームでは、double jump.tokyoから「My Crypto Heroes(マイクリプトヒーローズ)」が2018年11月頃にローンチされました。ゲーム内のドット絵のキャラクターがNFT化されており、ゲーム内外でのNFT取引や、ゲーム内でのクエストによるNFT獲得など、まさに「Play to Earn」を体感できるゲームです。
出典:My Crypto HeroesのWebサイトより
 
 当時のゲームユーザーは、詐欺プロジェクトの多さに疲弊していましたが、マイクリプトヒーローズが2017年末にテレビCMを打ったことや、ゲームでお金を稼げることが話題になり、国産の信頼できるゲームとして世界に広がっていきました。その勢いはダップレーダーのゲーム部門でトップになるほどでした。イーサリアム上でトップということは、世界でナンバーワンということです。2018年当時のdAppsゲームは、日本が市場を牽引していました。当時のマイクリプトヒーローズはアクシーインフィニティよりゲーム性が豊かで、ユーザーも多かったのです。
 2018年、暗号資産バブルの崩壊により市場は低迷していきましたが、ユーザー主催のイベントなどは頻繁に行われ、NFTを所有するユーザーが新規ユーザーを呼び込むネットワーク効果は機能していました。その後、国産dAppsゲームは海外勢に大きく差をつけられることになるのですが、その理由は後述します。
 

4.dAppsゲームの目指す世界

 dAppsゲームに関わるユーザーには「dAppsゲームはこうあるべき」という理想があります。それが2018年に公開された映画『READY PLAYER ONE』です。これは、VRゲームを題材にしたスティーヴン・スピルバーグ監督によるSF映画で、ガンダムやゴ ジラなど、創作上のキャラクターがてんこ盛りに出てきます。
 この映画はSFなのですが、ゲームでも現実でも使える共通通貨や、世界に1つしかない希少なアイテムなどが登場します。ブロックチェーンやNFTを学んだ人であれば、この映画を見た瞬間、「これ全部、ブロックチェーン技術で実現できる!」と思うはずです。
 『READY PLAYER ONE』のおもしろい点は、単なるSFではなく、「既存の技術が発展すれば将来こうなる」という、手の届きそうな現実を描いていることです。この映画の公開以降、この業界に関わる人の合言葉は「『READY PLAYER ONE』の世界をつくろう!」になりました。
 
 

まとめ

  • ブロックチェーン上のアプリケーションがdApps、ゲームがdAppsゲーム
  • 2021年、dAppsゲームはGameFiへとリブランディングされた
  • Web3.0 とゲームの相性はよく、ゲームはWeb3.0 の入り口となっている
  • dApps ゲームが伸びていた2018年は、日本が市場を牽引していた
  • dAppsゲームは映画『READY PLAYER ONE』で描かれた世界を実現しようとしている