アートやスポーツなどに活用されるNFTの主な事例

POINT ここではNFTについて解説します。
 ニュースなどで目にする機会が増えたバズワード「NFT」について解説していきます。NFTの仕組みを解説する前に、NFTの事例を紹介し、興味を持ってもらうところから始めます。
 なお、この記事におけるNFTは、特別な言及がない限り、イーサリアム上のERC721やERC1155により発行されたトークンのことを指します。

1.アート分野で活用されるNFT

NFTブームの火つけ役となったアート作品
 2021年3月、美術品オークションハウスの老舗であるクリスティーズに出品された、ビープル氏の『Everydays - The First 5000 Days』という作品が、6,900万ドル(当時の円換算で75億円超)の価格で落札されました。このニュースは、デジタルアートでの過去最高額として話題になり、NFTブームの火つけ役となりました。
 ビープル氏は毎日1点、10年以上にわたり、アート作品を制作し続けているアーティストです。そして、この作品は、彼の5,000日分のアート作品を並べたコラージュ作品です。ビープルというアーティストの特徴を表す、彼にしか制作できない唯一無二の作品であること、NFTとして世界に1つしかない作品であることが証明されているので、これほど高額になりました。 
出典:Christie'sのWebサイトより
 
 ビープル氏のNFTの落札事例を皮切りに、著名なアーティストが次々とNFT販売を開始し、高額で取引されたのが2021年前半の出来事です。匿名画家であるバンクシーの作品もNFT化されて登場しましたが、匿名であるがゆえに贋作が先に登場し、贋作のほうが高く売れるという事態が起こりました。初期のNFTの混乱状況をよく表している事例といえます。
 
最古のNFTであるCryptoPunks
 アート作品が高く売れるのは納得できるかもしれませんが、誰でも描けそうなCryptoPunks(クリプトパンクス)というドット絵作品が1,180万ドルで落札されたことが大いに話題になりました。クリプトパンクスは、AIが自動生成した24×24ピクセルのドット絵作品です。1万枚にも及ぶ種類があり、レアなものほど高額で取引されています。1,180万ドルで落札されたものは、1万枚のうち9枚しか存在しない「宇宙人」という属性があり、そのレアさから高額で取引されました。
 クリプトパンクスは、イーサリアム上で最初に発行されたといわれるNFTシリーズです(厳密にはERC20規格のトークンですが、わかりやすく説明するため、便宜的にNFTとして扱います)。ブロックチェーンを参照すれば時系列で確認できるので、どれが最も古いNFTかがわかります。ブロックチェーンの歴史はまだまだ浅いのですが、人類が最初に描いた壁画に歴史的価値があるのと同じように、クリプトパンクスもいずれ歴史的価値を持つNFTになっていくでしょう。
出典:Larva Labs「CryptoPunks」のWebサイトより
 
 高額で取引されるクリプトパンクスは、最も有名なNFTの1つです。そして、そのNFTを持っているということは、「早くからNFTの可能性に気づいた」という、先見の明があるイノベーターであることを示す称号となり、NFT界隈から尊敬を集めることができます。これは、現実世界での富の象徴とされるロレックスやランボルギーニなどを所有する感覚に近いものです。
 
ツイッター創始者の最初のツイートの落札事例
 NFTの事例としてよく取り上げられるのが、ツイッター創始者の最初のツイートが300万ドルで落札された事例です。しかし、これはNFTを正しく理解することを難しくしている事例といえるでしょう。
 中央集権的なサービスであるツイッター上のツイート自体がNFTで取引されるようになったわけではありません。ツイート自体はデータベース上に保存されたデータであり、サービスが停止されれば消失してしまうものです。
 ツイートのNFT化は、NFTマニアの集団がネタとして行ったものです。ツイート自体に300万ドルの価値があるわけではなく、「ツイートをNFT化したらおもしろくない?」というネタ的な発想で生まれたNFTに、周囲がおもしろがって高額を付けただけにすぎません。メディアからすれば、「ツイートが300万ドルで落札!」という見出しはインパクトがあるので、こぞって引用され、NFTの代表事例になりました。この事例が有名なので、最初にこの話を聞いた人が疑問を抱くようになり、NFTの説明に苦慮するという事態になってしまいました。現在、このツイートの販売サイトは、サービスを停止しています。
 ツイートのNFT化自体に価値はないと筆者は考えますが、投稿する文字数の制限から万葉集に近いものと捉え、その最初の1ページ目なので価値があるという考え方もあり、価値の捉え方は人それぞれです。
出典:jack氏のTwitterより
 
現代アートの巨匠とのNFTブランドのコラボ
 コラボレーション事例として、村上 隆氏と、NFTブランドのRTFKT(アーティファクト)が共同で制作したNFTがリリースされています。村上氏は、業界でもトップクラスの早さでNFTに参入し、多くの人に期待されています。当初はbeeple氏のように、自身のアート作品をNFT化して販売するものと思われていましたが、村上氏はRTFKTと「CloneX(クローンエックス)」というNFTを販売しました。
 RTFKTは、バーチャル空間でアバターなどが履くスニーカーの制作から始まったバーチャルファッションブランドです。2020年1月に3人の若者が立ち上げ、デジタルアイテムのNFT販売や、そのアイテムをAR(Augmented Reality:拡張現実)の技術でリアルに試着する機能の開発など、実験的な試みを続けています。
 クローンエックスはクリプトパンクスのように、さまざまな見た目を持つ3DアバターのNFTです。2万体が1体3ETHで販売され、即完売しました。当時の1ETHが約40万円ほどでしたので、円に換算すると一瞬で約240億円を売り上げた計算になります。現代アートの巨匠とNFT最高峰ブランドとのコラボレーションで非常に注目されていたので、1体100万円を超えても飛ぶように売れたのです。
出典:RTFKT「CloneX」のWebサイトより
出典:OpenSea「CLONE X - X TAKASHI MURAKAMI」のWebページより
 
 さらに、販売後にナイキがRTFKTの買収を発表したことで、CloneXの2次流通価格が跳ね上がることになりました。2022年4月時点では、CloneXの最低2次流通価格は14ETH、発行数は2万体であり、時価総額1,120億円を超えるプロジェクトとなっています。日本でもVRアーティストの1点ものの作品が1,300万円で落札されるなど、高額の取引事例が相次いでいます。
 

2.そのほかの分野で活用されるNFT

スポーツ分野での活用事例
 米国では、スポーツ分野でのNFTの活用がすでにビジネスになっており、新しいトレンドとなっています。たとえば、NBA選手のスーパープレー動画をNFT化し、トレーディングカードとして取引可能にした「NBA Top Shot」というサービスがあります。2018年頃にローンチされたサービスでありながら、2021年1月頃からブームに火がつき、直近1年足らずで7億ドルを売り上げています
出典:NBA Top ShotのWebサイトより
 
 当時の売上を実感するために、定量的なデータを見ていきましょう。NBAトップショットと、先ほどのアート作品の流れで紹介したクリプトパンクスとの売上を合算した積み上げグラフが次図です。2021年前半は、世界のNFT市場の売上の大半をNBAトップショットとクリプトパンクスで占めていました。NFTの売上のほとんどがアートとスポーツでの活用であったということです。
 出典:The Block「Weekly Trade Volume of NFTs」をもとに作成
 
 売上の次は取引量を見てみましょう。その積み上げグラフが次図です。クリプトパンクスの取引量が見えないほど、NBAトップショットが多いことが確認できます。アート作品は1点1点が高額で取引されているのに対して、スポーツ分野では安くて多量のNFTが取引されていることがわかります。
出典:The Block「Weekly NFT Transactions」をもとに作成
 
スポーツ分野のNFTの特性
 NFT関連のニュースでは「NFTが○○万ドル!」などと高額取引を報道するものが多いですが、NBAトップショットの実態では、過去数か月の約450万件の取引のうち、300万件以上は50ドル以下です。実際、NBAトップショットのユーザー数は100万人に達し、DAU(Daily Active Users)では15万人~25万人ほどが、NBAの動画のNFTをトレーディングカードとして購入したり交換したりしています。
 前図は2021年のデータですが、2022年もNBAトップショットの取引量は圧倒的であり、この傾向は変わりません。その背景には、NBAトップショットのNFTをクレジットカードで購入できることがあります。通常、NFTは暗号資産で取引されるので、暗号資産を持たない大多数にはハードルとなります。NBAトップショットはそのハードルを、利用するUI/UXを変革することで乗り越え、純粋なNBAファンを取り込んで飛躍的な成長を遂げました。この事例により、NFTが富裕層の道楽ではなく、ビジネスでも利用できる技術であることが証明されたのです。
 成功の前例があることで、その後、日本でもNBAトップショットのアイデアを野球やサッカーに転用した事例などが続々と登場しています。
 

ファンが真に「欲しい」と思うコンテンツか
 多くのファンを抱えるコンテンツの担当者にNFTの話をすると、「ファンのリテラシーは高くないのでNFTは難しい」とおっしゃる方が必ずいます。これに対して筆者は、「コンテンツの価値を高める努力が不足している」と考えます。これは経験談ですが、筆者の子どもが生まれたとき、これまでかたくなに携帯電話を使い続けてきた母は、「孫の顔が見たい」という一心で即座にスマートフォンに切り替えました。
 コンテンツを「好き」な気持ちは、ハードルを乗り越えるモチベーションを与えてくれます。ファンのリテラシーを言い訳にするのではなく、何をコンテンツとして提供し、どんなUI/UXの変革を行えば、ファンに「欲しい」と思ってもらえるかを考え抜くことが重要なのです。

 

そのほかのNFT関連のニュース
 ビープル氏やクリプトパンクスのニュースをきっかけとして、「NFT」という言葉がバズワード化し、よく耳にするようになりました。メディアでは高額NFTの取引事例ばかりが取り上げられるので、NFTはアート分野で活用されるものと考えられがちですが、NFTはさまざまな分野に応用できる技術です。
 日本でも大手企業らが続々とNFTの販売や実証実験などを始めています。たとえば、次の事例などがありますが、これらはほんの一部で、まだまだたくさんの事例があります。
 ・ VISA:クリプトパンクスの購入を発表
 ・アディダス:サンドボックス(仮想環境)上の土地を購入
 ・集英社:マンガアートをブロックチェーン技術の利用で販売開始
 ・ スターダストプロモーション:ももいろクローバーZのNFTトレーディングカードの販売開始
 ・ マイアニメリスト:漫画の名シーンを切り取ったNFTを販売開始(第1弾『北斗の拳』)
 ・X(エックス)クリエーション:よしもとNFTやJO1ファンアプリにNFTを実装
 ・ スクウェア・エニックス:決算報告でブロックチェーンゲームに注力することを明示
 ・ 手塚プロダクション:手塚治虫の原画をもとにランダムに生成したジェネレーティブアートNFTを販売
 ・ 新潟県長岡市山古志地域:限界集落を救うためにNFTを販売し、購入者を「デジタル村民」にする施策を実施
 
ジェネレーティブアート
 アルゴリズムによってランダムに生成されるアート作品。見た目が幾何学的に変わる。
(イメージはQRコードからArt Blocksへ移動して参照ください)
  
 

まとめ

  • NFTはアートなどへの高額取引事例によりバズワード化し、急速に広まった
  • ドット絵作品のCryptoPunksは最古のNFTといわれ、所有していると先見の明があることの証となる
  • アーティストとNFTブランドによるコラボレーションも生まれている
  • アート作品は「高額」「少量」の取引であるのに対して、スポーツ分野は「安価」「多量」な取引がされている
  • 日本でも大手企業らが続々とNFTの販売や実証実験を開始