NFTの価値を高める要素
POINT ここではNFTの価値を高める要素について分析します。
前記事では、NFTブランドの代表格であるトップダウン型のBAYCと、ボトムアップ型のルートの特徴を解説しました。ここでは改めてNFT自体に視点を戻し、「NFTにどんな要素があれば価値が高まるか」を考えてみましょう。たとえば、画像などのデータの保存場所、コンテンツの権利の問題、クリエイター中心の経済圏などの要素が挙げられます。
1.NFTの価値を高めるフルオンチェーン
データベース上のデータにある消失のリスク
NFTの価値を判断する基準の1つに、
データの保存場所があります。一般的なNFTの画像などは、データ容量が大きいので、ブロックチェーン上ではなく(
別記事参照)、NFT発行者のデータベースに保存されています。そのため、データが差し替えられたり消失したりするリスクがあります。したがって、
データの保存場所が強固であるほど価値が高いNFTといえます。
ブロックチェーン上に保存できると価値が高い
そういった意味では、ルートはすべてのデータがブロックチェーン上に記録され、改ざんできないようになっています。そのため、価値が高いNFTといわれます。すべてのデータがブロックチェーン上に記録されたNFTを「フルオンチェーンNFT」と呼び、NFTとしての価値が高いものとして認知されています。
の場合は、データ自体が容量の小さいテキストデータなので、スマートコントラクト(スマコン)に直接記録できるのです。ドット絵なども同様にフルオンチェーンのものが多く、NFTの価格が高い理由にもなっています。 フルオンチェーンNFTは、発行されたブロックチェーンがある限りデータも存続するので、NFTが残り続ける可能性が高くなります。また、スマコン上にすべてのデータが記録されているので、データを読み込みやすくなります。これらの特徴により、開発者が派生プロジェクトを構築しやすくなり、ネットワーク効果を得やすくなるというメリットもあります。
2.権利を放棄するクリエイティブ・コモンズ「CC0」
機能の追加や拡張、再利用などが自由
ルートをはじめ、コンテンツ制作を行う際に注意したいのが権利の問題です。ルートではクリエイティブ・コモンズ「CC0」のライセンスを掲げています。
CC0とは、「コンテンツの作者や所有者が著作権による利益を放棄し、コンテンツを完全にパブリック・ドメインに置く」ことを宣言するものです。CC0により、ほかのNFTクリエイターが著作権による制約を受けず、自由にコンテンツに機能を追加し、再利用できるようになります。CC0であることで、ミームや派生プロジェクトなどが構築しやすくなるのです。
Web2.0とWeb3.0の考え方の違い
CC0に至った背景には、Web2.0とWeb3.0の考え方の大きな違いがあります。「Web2.0思考」ではソースコードを公開せず、自社内で保持します。これは、ソースコード自体や技術自体に価値があると考えているためです。反対に、「Web3.0思考」ではソースコードを公開し、オープンソースとして広く利用してもらうことが基本です。「コピーされて偽物ばかりになり、Web3.0プロトコルに価値がなくなるのでは?」と思われるかもしれませんが、そうはなりません。すでに世界中で利用されているビットコインやユニスワップのようなプロトコルは、ソースコードが公開されており、それをコピーしたプロジェクトが大量に発生しています。しかし、プロトコルとしての価値を失っておらず、コピー元より大きな信用とコミュニティが加えられ、そこに多くの接続サービスが存在しています。
これらの事実から、Web3.0は「コードや技術ではなく、サービスを支援するコミュニティと、そこに連結されるサービスが提供する利便性に価値がある」ということが学べます。CC0についても「著作権ではなく、NFTやコミュニティに価値がある」という考え方で生まれたものの1つです。NFTに紐づくコンテンツデータがコピーされて偽物が現れても、コミュニティは模倣できないので問題なく、むしろ偽物が増えるほどそれが新しい広告となって本物の価値が高まる構造になっています。悪意のある偽物の登場は歓迎されることではありませんが、CC0による二次創作作品の出現は、もとになったNFTの新しい一面を描くことになります。そのため、作品が増えるほど、もとのNFTブランドの価値は高まります。
NFTプロジェクトの成長
もともとNFTは、高いコンポーザビリティ(
別記事参照)があるので、「運営会社の異なる複数のゲームで同じNFTを使う」といったことが可能でした。これに対してルートは、このNFTの特徴を「
究極にシンプルなかたち」に変化させ、さらに高い価値を生み出します。この変化は革命的であり、「NFTプロジェクトはCC0であるべき」という論調がNFT界隈に広まり、CC0を掲げる後発プロジェクトが増えました。ルートが新しい文化を築いたことで、ルート自体の価値も高まりました。
ルートには管理者がいません。コアの開発者もクリエイターもいません。ロードマップもありません。すべてが分散されています。だからこそ、どんなものに変化していくかわからない、限界のない広がりがあります。 トップダウン型が先行したことで、「NFTといえばBAYC」という印象が持たれやすいですが、ルートのようなボトムアップ型のNFTプロジェクトも着実に成長しています。また、CC0によって権利を放棄することで、ネットワーク効果が高まり、ボトムアップでつくられたコンテンツが増加しやすくなります。ここからWeb3.0時代に対応したIPコンテンツ(知的財産)が生まれるかもしれません。
3.Web3.0で実現されるクリエイター経済圏
Web3.0へのシフトによる経済圏の変化
NFTのCC0化は、クリエイターにも恩恵があります。
Web2.0はクリエイター搾取の世界でした。テックジャイアントはクリエイターにコンテンツを提供してもらう代わりに、「いいね!」を返していました。それにより、クリエイターの承認欲求を一時的に満たすことで、プラットフォームに滞留するコンテンツを増やし、企業から広告料を徴収していましたが、クリエイターには1円も還元されていませんでした。最近になり、ユーチューブやサブスタックなどのようなクリエイターがマネタイズできる仕組みを提供するサービスも登場し始めましたが、クリエイターが制作したコンテンツを使ってプラットフォーマーが莫大な利益を得る構造は、これまでの「当たり前」でした。
一方、Web3.0はクリエイター中心の経済圏になります。Web3.0ではクリエイターがP2P取引により直接マネタイズでき、プラットフォーマーに回っていたお金がクリエイターに回るので、「クリエイター経済圏」などと呼ばれています。
大きな変化としては、次の3つがあります。
1.クリエイターの収益性の向上
2.体験価値に応じた柔軟なプライシング
3.ファンがコンテンツを自発的に宣伝するインセンティブ
クリエイターの収益性の向上
NFTのプラットフォームやマーケットプレイスなどは存在します。しかし、コンテンツデータ自体はクリエイターが所有するので、たとえばマーケットプレイスが手数料を上げると、クリエイターはほかのマーケットプレイスへ移るといった対処ができます。つまり、プラットフォームへの依存度が下がるのです。そうすると、後発プラットフォームは手数料を上げることが難しくなり、先発より手数料を下げることで、クリエイターを誘引しようとします。実際、世界トップのNFTマーケットプレイスであるオープンシーの手数料は2.5%ですが、後発のルックスレアは2%の手数料となっています。プラットフォームの手数料を下げると、クリエイターの利益は数倍に増加します。たとえば(次図)、収益が20万円、制作費が8万円、手数料が10万円の場合、利益は2万円ですが、手数料がなくなると、制作費のみがコストとなり、利益は12万円(6倍)になります。
もちろん、これほど単純ではありませんが、クリエイターに回るお金が増え、収益性が改善されれば、クリエイターはたくさんの仕事をこなす必要がなく、制作に集中できるようになります。そうすることで、よりよいコンテンツが生まれる可能性が高くなっていきます。
体験価値に応じた柔軟なプライシング
クリエイター経済圏がもたらす効果の2つめは、きめ細かな価格設定ができるようになることです。広告ベースのモデルでは、ファンの熱狂度に関係なく、ほぼ一律に収益が発生します。一方、NFTはデジタルコンテンツなので、熱狂的なファンが求める体験価値の高さに応じて、適切なコンテンツを提供できます。
これにより、価格を段階的に切り分けることができるようになり、収益を最大化できます。実際、NBAトップショットは、10万円以上のものから1,000円程度のものまであり、BTCの場合は好みに応じて小数点第8位から購入できます。細かな粒度で価格を設定できるので、クリエイターは需要曲線の下に広がる、できるだけ多くの領域から収益を得ることができるのです。市場にはさまざまな価格のNFTがあり、ファンは支払える予算と体験価値を考慮して最適なNFTを選べます。このことも、コレクティブルNFTが流行している要因の1つです。
ファンがコンテンツを自発的に宣伝するインセンティブ
トークンには
株式と同じ特性があります。トークンを保有したファンはクリエイターの株主(のようなもの)になるので、「トークンの値上がり」を期待する内発的動機により、コンテンツを広めるインセンティブが生まれます(
別記事参照)。もし、これからNFTに参入するクリエイターなら、ルートのようなCC0のプロジェクトに沿ってNFTを制作することで、
ルートコミュニティのメンバーがその作品を積極的にコミュニティ内で宣伝してくれる可能性があります。既存コミュニティへの貢献度を高めながら、少しずつクリエイターとしての経験と実績を積み、徐々にクリエイター自身のファンを増やしていくことができるでしょう。
NFTはクリエイターにとっての「蜘く蛛もの糸」
「クリエイターと1,000人の真のファン」という考え方があります。「真のファン」とは、クリエイターのコンテンツにお金を支払い、支援してくれるファンのことです。たとえば、クリエイターのライブのために遠距離を移動して見に来てくれたり、クリエイターの制作したフィギュアをひと目見て購入してくれたりする熱狂的なファンのことです。「1,000人の真のファン」とは、クリエイターとして生きていくために、世界的に有名にならなくても、1,000人の真のファンがいればよいということです。「1,000人の真のファン」の考え方は、クリエイターとユーザーがグローバルにつながり、仲介者の制約を受けず、アイデアや利益などを共有するという、インターネットの本来の理想に基づいています。
インターネットが登場した当初、インターネットが究極の仲介者となり、
クリエイター経済圏が構築され、どんなにニッチなクリエイターでも真のファンを見つけられるのではないかという期待感がありました。しかし、そこには至らず、現在のガーファのような中央集権型のソーシャルプラットフォームがクリエイターとファンをつなぐ手段として主流になったのです。 実際、Web1.0のインターネットでは、クリエイターとファンをつなぐ「信用」が担保されていませんでした。「お金を振り込んだら、クリエイターはきちんと商品を送ってくれるのか?」「商品を送ったら、ファンはきちんとお金を振り込んでくれるのか?」といった「
カウンターパーティリスク(取引相手の信用リスク)」が常にありました。クリエイターやファンがそのリスクに対して
信用コスト(別記事参照)を負うには、まだコストが大きすぎたのです。
Web3.0の到来によりWeb2.0の集権性がたたかれることがありますが、「集権性の便利さ」により巨大な市場になったのです。プラットフォームは便利さと信用コストを一手に引き受けることで、クリエイターとファンをつなぎ、代わりに広告やレコメンデーションなどを介在させることで、収益の多くを自分たちのものにする、といった経緯を経て新たな仲介者となった歴史があります。
一方、NFTは、クリエイターがファンと直接つながる機会を提供してくれるものです。まだ始まったばかりですが、Web3.0経済圏が整っていくことで、1,000人の真のファンを抱える小さなコミュニティがたくさん構築されていくことになるでしょう。NFTはクリエイターをWeb2.0から救うための「蜘蛛の糸」となる可能性があるのです。その第一歩として我々ができることは、まずはNFTを買ったり、本書を身近なクリエイターとシェアしたりすることです。それが、クリエイターをWeb2.0から解放し、Web3.0を発展させるきっかけとなります。
✅まとめ✅
- フルオンチェーンNFTはデータ消失のリスクが低く、価値が高いとされる
- トップダウン型は企業コラボや資金投入によって発展する一方、ボトムアップ型はCC0でコミュニティのネットワーク効果を成長させている
- クリエイターとファンが直接つながり、クリエイター経済圏が生まれる
- クリエイター経済圏では柔軟な価格設定ができ、収益性が向上する
- NFTはWeb2.0 からクリエイターを救う「蜘蛛の糸」になる可能性がある