巨大化するNFT市場とNFTの仕組み

POINT ここでは急激に拡大し、成長を続けるNFT市場について解説します。
前記事では、NFTの導入として、具体的なNFTの事例を見てきました。ここからは定量的な情報として、NFT市場の取引量や流通総額など、市場規模や推移を見ていきましょう。また、主なNFTプロジェクトの特徴や、日本のNFT市場、NFT自体の仕組みについても触れます。

1.グローバルな視点で見たNFT市場

NFT市場の驚異的な成長
 NFT市場全体を定量的に見てみましょう。世界的なNFTの取引量は、ブロックチェーンを参照すれば誰でも確認できます。NFTが話題になった2021年8月がピークかと思いきや、その熱は冷めやらず、2022年1月に再び波が押し寄せました。多い日では1日に3億ドルの取引が成立しています。
出典:Dune Analytics「Opensea - Daily USD volume」をもとに作成
 
 この市場規模を、既存産業で個人間売買を行うメルカリと比較してみます。メルカリの2021年Q3(第3四半期)の売上高は286億円なので、メルカリの3か月分の金額を数日で超えるほどの流通量ということになります。2020年以前は全く盛り上がっていなかったことを考えると、2021年のNFT市場の成長率が驚異的であることがわかります。
 
取引されているNFTの特徴
 どんなNFTが取引されているのかも見てみましょう。データは古くなりますが、次表は2021年10月当初のNFT流通総額ランキングです。注目してもらいたいのは金額の大きさと、トップのAxie Infinity(アクシーインフィニティ)以外すべてがイーサリアムであることです(アクシーインフィニティだけローニン)。2022年4月になっても、価値の高いNFTのほとんどがイーサリアム上で流通している傾向は変わりません。
 イーサリアムは、圧倒的な時価総額とステークホルダー数を抱えていて市場が最も大きいことと、セキュリティが高く、先行者優位なポジションです。後発ブロックチェーンはノードが十分に分散していないので、イーサリアムに比べてセキュリティリスクが高く、高額なNFTほどイーサリアムを使うメリットが強くなります。
 NFTはまだ登場したばかりの新しい技術です。「NFTをどう扱うべきか」について試行錯誤をし、特定のNFTプロジェクトがNFTの価値を生み出すと、それを最初に実現したプロジェクトが成功していく傾向があります。ここではトップ3のNFTプロジェクトがどのような価値を生み出しているかを紹介します。
 

2.代表的なNFTプロジェクトの特徴

「Play to Earn」の文化を築いたアクシーインフィニティ
 Axie Infinityは、NFTを組み込んだ新しいゲームです。詳細は次章で解説しますが、Game(ゲーム)とFinance(金融)を掛け合わせた「GameFi(ゲームファイ)」の分野を開拓し、ゲームでお金を稼げる「Play to Earn」の文化を築いたプロジェクトです。
 これまでのゲームは、コインやアイテムといったゲーム内資産を実際の資産や法定通貨に変換できませんでした。しかし、Web3.0のゲームは、ゲーム内のコインが暗号資産、アイテムがNFTになっており、ゲーム外でも取引してお金を稼げます。ダンジョンやクエストに出向き、ゲーム内資産を入手してお金を稼げるので「Play to Earn」と呼ばれ、ゲームが仕事になりました。
 
新しいデジタルアートを築いたArt Blocks
 Art Blocks(アートブロック)は、特定のアルゴリズムによって自律生成されるデジタルアート、いわゆるジェネレーティブアートをNFT化して販売するマーケットプレイスです。スマートコントラクト(スマコン)との相性がよいジェネレーティブアートに焦点を当て、新しいデジタルアートの概念を築いたプロジェクトです。
 アートブロックのアート作品のなかには、色、グラデーションの変化率、波線の形状などが発行時にランダムに生成され、購入するコレクターにも「どんなアート作品になるかわからない」という特徴を持つものがあります。
 改ざんができないブロックチェーン技術、スマコンの特性、プログラミングにより生み出されるジェネレーティブの相性のよさを最初に取り入れ、ジェネレーティブでしか生まれ得ないデジタルアートを実現しようとしたことが評価され、世界的に話題となりました。
 
新しいデジタルアートを築いたクリプトパンクス
 前記事で紹介しましたが、イーサリアム系NFTの元祖がクリプトパンクスです。1万枚を発行してNFTに流動性を持たせたコレクティブルNFTが誕生し、ブランド化していきました。
 NFTランキングを見渡してみても、ほとんどがクリプトパンクスに一手間加えた作品であり、その影響力は非常に大きいものでした。ドット絵ではなく、アニメ調のイラストとコレクティブルを掛け合わせたものや、コレクティブルNFTにコミュニティへのアクセス権を紐づけたものなど、さまざまな派生作品へとつながるもととなったNFTです。
 
コレクティブルNFT
 同系統、かつ個性の異なるNFTを発行するプロジェクトの総称
 
 ランキングには、このほかにもプロジェクトがありますが、それぞれが試行錯誤をしながら、新しい文化を追加する形式で進化してきています。そして、その文化が短期的であったり、狭いコミュニティでの共通認識であったりしても、その文化が歴史として積み重なっていくことに意味があります。NFTのトレンドは数か月ごとに変化し続けており、常に流れを追えるようなものではありません。もしNFTに関心があれば、専門のニュースサイトやランキングのチェック、ツイッター(現:エックス)での情報収集などを行い、トレンドを探ってみることをお勧めします。
 

3.日本のNFT市場

盛り上がり始めたばかりの日本市場
 NFTは通常、暗号資産でやり取りされるので、日本に限定して論じる意味はあまりないのですが、日本のシェア率は世界全体の3%ほどと考えられます。たとえば単純計算で、世界人口が約70億人、インターネット人口がその半分、日本人口が約1億人(インターネット人口が約9割)と考えると、おおよそのシェア率を把握できます。このシェア率はWeb3.0プロトコルが発表している国別ユーザー数と比較しても、それほど外れている数字ではありません。
 また日本のNFT市場は、2021年9月頃から盛り上がり始めたばかりの新しい市場です。NFTトレンドを追う少数のイノベーターコミュニティしかなかったところに、インフルエンサーが現れ、参入者が急激に増えていきました。
 
クリエイターのNFT作品の事例
 事例として、兼業イラストレーターのおにぎりまん氏のNFT作品を見てみましょう。おにぎりまん氏は、日本でランキング上位のNFTクリエイターです。かわいい女の子のイラストをNFT化して販売しており、総流通量は2022年4月時点で268ETH(約1億円)、NFTの最低価格は30万円ほどです。昔からブロックチェーン界隈では有名なクリエイターで、以前からNFT販売を行っていましたが、2021年9月頃から取引量が急激に伸びたことが次図からわかります。
出典:OpenSea「onigiriman's cute girl Collection」のWebページより
出典:OpenSea「onigiriman's cute girl Collection」のWebページより
 
 作品のかわいさはもちろんですが、日本でのNFTの話題の波に乗って売れたことがうかがえます。「NFTが〇〇円で落札!」といったニュースがたびたび流れ、そのニュースをきっかけにNFT参入者が増加する「正のサイクル」が回り始め、その影響により需要も増加するという構造は、基本的に暗号資産などと同様です。
 NFTを高く売るためには、もとからフォロワーが多く、影響力のあるインフルエンサーが有利です。特に日本のNFT市場はその傾向が強く、NFTは誰でもつくれるので、マーケティング勝負になっている側面があります。日本市場は3%ほどのシェアしかないため、マーケティングの力でNFTを売るとしても、NFT価格が海外と日本で0が2つほど違うのが現状です。
 

4.NFTの仕組み

3種類のデータが入れ子構造になっているNFT
 第2章でも解説しましたが、「NFT」は「Non-Fungible Token」の略であり、「代替できないデジタル上のモノ」全般を指します。ゲーム上のアイテムやデジタルグッズ、チケットなどがイメージしやすいでしょう(2-2参照)。「NFT=画像」と誤解されやすいのですが、NFTの表現方法として画像が用いられることが多いというだけです。ここでNFTの仕組みについて説明しておきましょう。
 まずはNFTの構造からです。NFTはインデックスデータメタデータ、NFT化されるコンテンツデータ(画像や動画など)の3種類から構成されます。インデックスデータにメタデータの参照先が記録され、メタデータにコンテンツデータの参照先が記録されるという入れ子構造になっています。そして、この構造のうち、ブロックチェーン上に記録(オンチェーン)されるのはインデックスデータのみです。メタデータやコンテンツデータはオフチェーンデータなので、通常は誰かが管理するデータベースなどに保存されています。NFTの構成要素のうち、すべてがブロックチェーン上に記録されるわけではないことを知っておきましょう。
 NFT化されるコンテンツデータには、画像以外に動画や音楽などがありますが、それらは容量が大きく、イーサリアムブロックチェーン上のブロックに格納できません。そのため、ブロックチェーンにはデータの参照先だけを記録する仕様になっているのです(例外として、容量の小さいSVG形式で画像データを直接ブロックチェーン上に記録するフルオンチェーンNFTもあります)。
 オンチェーンデータからオフチェーンデータを参照しているだけなので、コンテンツデータの保存先のサーバーが停止したり、コンテンツデータがサーバー管理者に差し替えられたりすると、NFTを確認できなくなるリスクがあります。
 「NFTは複製できず唯一無二」という説明をよく聞きますが、NFT自体はコピー禁止の技術ではありません。コンテンツデータは通常のWebと同様、右クリックで保存できます。つまり、NFTにおける唯一無二とは、「『インデックスデータ+メタデータ+コンテンツデータ』の単位で唯一無二」ということです。コンテンツデータをコピーした第三者が同じ見た目のNFTを作成しても、インデックスデータが異なるので別のNFTとなります。NFTの「改ざんできない」とされる特徴もオンチェーンのインデックスデータのみにあてはまる特徴です。見た目が同じNFTを見分けるためには、このデータの中身を確認する必要があります。
 

二次流通手数料はマーケットプレイスのおかげ
 「NFTは二次流通手数料がとれる」という話をよく聞きますが、これはNFT自体ではなく、取引を行うマーケットプレイスが実現しているものです。今後、開発が進む可能性はありますが、現時点でNFT自体にクリエイターへ収益を還元するような仕組みは実装されていません。
 そのため、取引されるマーケットプレイスが変わると、二次流通手数料がとれなくなります。マーケットプレイスは複数あるので、それぞれに手数料を設定する必要があり、マーケットプレイスにより手数料の還元方法や支払いのタイミングなどが異なります。

 
所有者の興味や関心を表すNFT
 「コンテンツデータ自体はコピーできる」と聞くと、少し残念な気持ちになりますが、NFTの本質は「所有の証明」にあります。NFTの参照や拡散は自由にできますが、「所有者が誰か」が明らかになっているのがNFTなのです。
 「あなたがこの本(モノ)の所有者である」ということは理解できると思いますが、「デジタルデータを所有する」という感覚はイメージしにくいかもしれません。「所有できるから何?」と思うでしょう。そこで、いくつか例を挙げてみます。
 たとえば、すべてがNFT化されたバーチャル空間で、高額なNFTアバターを着ていたとしましょう。有名で高価なNFTを身に着けていれば、友人から「それ、とても高いNFTブランドだよね!?」と言われることは想像がつくはずです。
 そのほか、デジタルデータとしては次のような例が考えられます。
 ・好きなアイドルのコンサートに行くためのデジタルチケット
 ・ゲーム中で特別に使えるスキル
 ・純粋なコレクションアイテムや大会の優勝トロフィーなど
 
 このような、所有していることで特別な行為ができたり、証明書として機能したりするモノがNFTです。所有を証明するだけでは価値はつきませんが、所有を証明すると「自慢できる」「うらやましがられる」「満足できる」といった特別な経験ができることは価値といえます。つまり、NFTは、画像をNFT化するだけでは価値がなく、NFTを介した体験までセットであることが重要なのです。高額なNFTは、それだけ特別な体験を購入者に提供できていることになります。そして、特別な体験とは「人とのコミュニケーション」です。NFTは、所有者の興味や関心を表すフラグとなり、同じ興味や関心を持つ人同士がNFTを介して引き寄せ合って、マッチングアプリのような機能を果たします。
 NFTはデジタルに適したコミュニケーションツールです。所有しているNFTを見れば、その人がどんな嗜好や思想を持っているかがわかります。NFTを所有した経験のある方なら、そのNFTの素晴らしさを人に伝える難しさがわかるでしょう。「同じシリーズのNFTを所有している」ということは、NFTについての説明が不要で、共通の興味や関心を持っているということです。コミュニケーションコ ストが劇的に下がり、いきなり本題から話を始めることができます。また、NFTは思想のフィルタリングとしても機能します。もしあなたが画像をNFT化しただけのものに価値を感じないとすれば、それは思想が異なるか、理解するだけの知識や体験が足りないということです。
 人にとっての最大の娯楽は、人とのコミュニケーションです。人は人との会話を通じて心理的安心感や社会的充足感を得ることができます。NFTはただの技術ですが、その先には人がいて、コミュニケーションが存在し、さらに感情が紐づいています。NFTは一時期のバブルともいわれますが、それが一向にはじけないのは、コミュニケーションを通じてNFTの価値に気づいた人が、NFTコミュニティに定着し続けているからだと考えています。
 
最初はおもちゃに見える大きな変化
 NFTはまだ発展途上の新しい技術です。「ドット絵を数十億円で取引するなんて理解できない」と一蹴する人もいるでしょう。今はそれでもかまいません。大きな変化の最初はおもちゃに見えるものです。JPG画像に大金を支払う人を笑っていられるのは今のうちです。Appleが最初にスマートフォンをつくったときもそうでした。周りに1人ぐらいしか持っていなかったときは全く欲しいと思わなかったのに、少しずつ増えてほとんどの人が持ち出したとき、スマートフォンが欲しくなったはずです。これが、これから訪れるNFTの潜在的な未来なのです。
  
 

まとめ

  • NFTの取引量は1日3億ドルを超えるほどで、メルカリ3か月分の金額を数日で超える量がある
  • NFTはまだ価値が定まっておらず、新しい価値を提案し、それを実現した最初のプロジェクトが成功する傾向がある
  • NFTの本質は「所有の証明」にある
  • NFTはコミュニケーションツールで、価値の源泉はコミュニティにある
  • 次に来る大きな波は最初おもちゃに見える