株式の上位互換であるトークンの概念

POINT ここではWeb3.0業界で頻繁に使われる「トークン」について解説します。
 前記事では、Web3.0が推進される要因を、「内圧」と「外圧」に分けて解説しました。次記事からWeb3.0の各レイヤー(領域)に入っていきますが、前提として押さえておくべき要素について解説します。
ここでは「トークン」を扱います。

1.ブロックチェーン上のデジタルデータであるトークン

トークンはブロックチェーン技術を使ったデジタルデータ
 Web3.0業界が成長した要因の1つに「トークン」があります。トークンとは一般的に、ブロックチェーン技術を使ったデジタルデータのことです。暗号資産のBTCなどもトークンの一種です。トークンは、ブロックチェーン上に誰の所有物であるかが記録され、改ざんができなくなったデジタルデータと覚えてください。
 
ブロックチェーン技術×デジタルデータ =トークン
 
トークンはFTとNFTの2種類に大別される
 現在、市場に流通しているトークンは「FT(Fungible Token/ファンジブル)」と「NFT(Non-Fungible Token/ノンファンジブル)」に大別されます(次図)。聞き慣れない言葉ですが、「ファンジブル」とは「代替可能」という意味です。
 通常、貨幣を通貨として利用するためには、すべての貨幣が同じ形状と機能を持っている必要があります。つまり、代替可能である必要があるのです。たとえば、〇や□の形状をした500円玉があったとすると、人によって好みが発生し、形状によって需給に差が生まれ、通貨として機能しなくなってしまいます。これが「ギザ10」と呼ばれる珍しい10円玉が高値で取引される所以です。
 FTは通貨と同様、「価値のモノサシ」としての利用が想定されているので、○や□などの違いがあると機能しません。そのため、FTはすべて、同じ形状と機能を持つ「Fungible(代替可能)な通貨」である必要があるのです。
 反対に、NFTは「代替できないモノ」全般を指し、デジタル上のチケットやキャラクターなどを表現しています。つまり、デジタルデータで個性を表現できるようになった点が非常に新しいといえます。
 NFTについては第7章の記事で詳しく解説します。
 

2.トークンは株式の上位互換

ブロックチェーン技術によるダウンサイジングイノベーション
 
トークンは株式の流動性を高め、発行を簡単にした上位互換の資産
 
 技術が進歩し、性能の高い製品があとから誕生することはよくあることです。スマートフォンのカメラがどんどん小さく高性能になったり、パソコンがコンパクトで高スペックになったりしていく事象を「ダウンサイジングイノベーション」と呼びます。機能自体は高度になりながら、そのサイズや単位などはどんどんコンパクトになっていくことがダウンサイジングイノベーションです。そしてWeb3.0では、株式とブロックチェーン技術が掛け合わされたトークンの誕生にり、ダウンサイジングイノベーションが起こっていますが、まだ多くの人がその事実に気づいていない、というのが現在の状態です。
 
株式の機能と用途
 まず株式には、大きく分けて次の3つの機能があります。
 
資金調達:起業家が株式を発行することで事業開始の資金を集められる
投資利益:投資家が企業に投資することで株式の値上がり益を期待できる
ネットワーク効果:株価が上がると投資家の利益になるので、投資を行っている企業を宣伝する内発的な動機が生まれる
 
 この3点が機能することで、市場にお金が流通し、経済が回っていく構造になっています。①株式発行により起業家が事業を成長させることで、②1株あたりの価値が高まり、投資家がその株式に投資するメリットが生まれ、③投資家がその企業を宣伝して新たな購入者を得られる
 このループが「ネットワーク効果」で、徐々に効果が大きくなるメカニズムになっています。このループを築くことができれば、株価の上昇によって得られる資金をもとに、起業家はさらに事業を成長させたり、新しい事業を開発したりすることができます。
 これらの機能はトークンも有していますが、発行方法が異なります。
 また、株式市場における企業の成長では、次図のように創業から少しずつ資金調達のステージを上げていくことが一般的です。ニュースなどでよく聞く、「スタートアップがベンチャーキャピタルから◯億円を調達」というのがこれです。ただし、スタートアップが成長しても、一般的な個人投資家は、その企業が上場するまで投資できません。ここで重要なのは「機関投資家やベンチャーキャピタルは株式を購入できるが、我々のような個人投資家は購入できない」という点です。
出典:野本遼平(Globis Capital Partners)「スタートアップの成長ステージ(2021年1月28日)」を参考に作成
 
株式と比較したトークンの特徴
 一方、トークンは、株式で制限されていた発行を、誰でも簡単に行えるようにしたものです。トークンであれば株式上場を待たずに誰でも購入できます。この点が新しく、一般的な個人投資家でもWeb3.0プロジェクトに「シード」や「アーリー」などの早期ステージから投資に参加できるようになりました。
 
 

株式の消費者保護の観点
一般の個人投資家が上場前の株式を狙うのは、大きなリターンを得るチャンスですが、損失を被る可能性もあります。知識のない人が有望なベンチャー企業を選定することは非常に困難です。また、なかには詐欺を企てる企業も存在します。現在の証券会社と株式上場の関係は、一般の個人投資家が無用なリスクにさらされないよう、「消費者保護」の観点から生まれたものです。ここで言いたいことは、保護されているのが良いか悪いかという話ではなく、「個人投資家が投資選択の自由を狭められているのはよくないから自由に選択できるようにしよう」というのがWeb3.0の思想です。

 

3.株式と比較したトークンのメリット

トークンのほうが株式より流動性が高い
 トークンは、P2P通信(「ブロックチェーン市場を牽引するビットコイン」参照)により取引者間で直接やり取りできるため、中間に証券会社を挟む株式より流動性が高くなります。一般的に取引とは、中間に人や組織を挟むほど手数料が高くなり、流動性が低くなるものです。トークンの取引手数料は法定通貨や株式の送金に比べれば安く済むので優位性があります。
 グーグル検索で日本の個人投資家の人数を調べると、約5,600万人と出ます。これは、日本の人口の約半分です。株式は資金調達ができる便利なものですが、購入できる人は日本に半分しかいないことになります。一方、トークンは、銀行口座がなくても扱えるので、購入可能な母数は株式より優位になります。これを考えると、トークンの市場規模が将来的に株式を追い越すこともあるでしょう。
 
トークンは保有者に強烈な内発的動機付けを与える
 トークンの定量的な優位性を挙げましたが、興味深いのが定性的な特徴です。トークンでは、証券会社を介さず、個人間で直接取引ができます。これにより、「ユーザーの行動への報酬としてトークンを渡す」ということができ、ユーザーにコンテンツを応援する内発的動機付けを与えることができます。
 たとえば、ゲームの開発・販売会社である任天堂は株式を発行していますが、「株式を保有している投資家全員が任天堂を好き」というわけではないでしょう。一方、トークンであれば、任天堂のゲームをしているユーザーに報酬(ログインボーナスや購入者特典など)としてトークンを付与できます。
 すでに任天堂のゲームで遊んでいてトークンが配布されるユーザーであれば、そのゲームの熱狂的なファンといえます。配布されたトークンは、そのゲームで遊ぶユーザーが増え、需要が上がるほど価値が高まるので、トークンを保有するユーザーの友人や家族などを誘う内発的動機付けが生まれます。
 株式と大きく異なる点は、ユーザーの熱量です。お金を出しているだけの投資家と、実際にゲームを遊んでおもしろさがわかっているユーザーとでは、その企業に対する熱量が圧倒的に異なります。その熱量をネットワーク効果として、トークン保有者間にコミュニティが生まれ、それをプロダクトの成長に生かすこともできます。これまでは、ユーザーの行動を促すために、テレビCMやデジタル広告などのマス広告を多用してきましたが、このトークンの優位性により、熱量の高いユーザーから自発的な口コミを生み出すという宣伝効果が期待できます。
 
具体的には、次のようなサイクルでコミュニティが成長します。
 1.ユーザーがゲームで遊ぶ
 2.特定の行動をしたユーザーにゲーム会社が報酬としてトークンを付与
 3.トークンを付与されたユーザーは報酬をもらうため、さらにゲームで遊ぶ
 4.トークンの価値が上がり、ユーザーが経済的に豊かになる
 5.報酬で経済的に豊かになったことで、高い熱量で宣伝するようになる
 6.新規ユーザーが増えてゲームの需要が高まり、トークンの価値が高まる
 
 このサイクルを「トークンエコノミー」または「トークンによる経済圏」と呼びます。BTCもデジタルゴールドとして、1つのトークンエコノミーを形成しており、ほかの暗号資産も上記と似た成長過程を経ています。
 トークンはブロックチェーン上に記録されており、発行枚数が決まっていて変更できません。ユーザーがゲームを熱心に宣伝し、新規ユーザーが増えて需要が増すほど、供給が限られたトークンの価値は高まり、トークン保有者は経済的なメリットを得ます。そして、ゲームを広める内発的動機付けも強くなります。
 熱狂的なファンのなかには、特殊なスキルを持つユーザーもいます。そういったユーザーは、自分の所属するコミュニティを成長させることに高い熱量をかけ、無償で仕事を受けるオープンソース的な活動もします。これが発展していくと「DAO(ダオ)」という分散型組織(第9章記事参照)になりますが、トークンエコノミーを実装したWeb3.0プロジェクトのゴールはこのDAO化にあります。
 DAOでは、世の中のさまざまなサービスにおいて、ユーザーの貢献度に応じてトークンを報酬として提供することで、サービス運営者側が業務をアウトソースできるようになります。インターネットでいえば、アフィリエイトが似ています。
 ちなみに、誰でも簡単にトークンを発行できるので、2017年の暗号資産バブルの際にICOプロジェクトが乱立し、「トークンを出せば売れる」という状況になりました。ICO(Initial Coin Offering/イニシャル・コイン・オファリング)は、株式でいうIPO(Initial Public Offering/イニシャル・パブリック・オファリング)に該当します。「2017年頃のICOプロジェクトは9割が詐欺」といわれるほどで、FATF(金融活動作業部会)や金融庁がICOの規制に動いた経緯があります。
 規制については第10章記事で解説します。
 
 
 

まとめ

  • ブロックチェーン技術を使ったデジタルデータが「トークン」
  • トークンはFT(暗号資産)とNFT(デジタル上のモノ)に大別できる
  • トークンは株式の上位互換
  • トークンの誕生により誰でも新規プロジェクトに投資可能になった
  • トークンは保有者に内発的動機を与え、高いネットワーク効果を生む