ブロックチェーンは所有を証明する技術

 「Web3.0」を調べ始めると、必ず「ブロックチェーン」という言葉に遭遇します。なぜなら、「Web3.0業界」はもともと「ブロックチェーン業界」と呼ばれており、2021年後半頃から「Web3.0」という言葉にリブランディングされたからです。定義の違いは多少ありますが、「Web3.0業界=ブロックチェーン業界」と考えて差し支えありません。本記事では、これらを同一のものとして扱いつつ、第1章ではWeb3.0の基盤技術であるブロックチェーンと、それを生み出したBitcoin(ビットコイン)について見ていきます。
 
 
1.ブロックチェーンとは
本質が見えづらいブロックチェーン
 
 「ブロックチェーン」の言葉の意味や技術などを知りたいとき、まずGoogle検索をすると思います。実際に検索すると、次のような意味が表示されます。
 
ブロックチェーンは、分散型ネットワークに暗号技術を組み合わせ、
複数のコンピューターで取引情報などのデータを同期して記録する手法。
出典:CoinDesk Japan「ブロックチェーン(blockchain)の基礎知識」
 
 おそらくこの説明だけで「ブロックチェーンで何ができるのか」を理解できる人は少ないでしょう。さらに検索すると、ブロックチェーンに関連する暗号資産、P2P(ピアツーピア)、DeFi(ディーファイ)、NFT(エヌエフティ―)、DAO(ダオ)、スマートコントラクトなど、聞き慣れない言葉が矢継ぎ早に出てくるので、ブロックチェーンの本質が見えづらくなっていると思います。
 また人によっては、ブロックチェーン=暗号資産≒「怪しい」「危ない」「ギャンブル」、という認識を持っていることもあります。確かに、暗号資産はブロックチェーンの技術で実現可能な実例の1つではありますが、暗号資産バブルが話題になったときのイメージのまま更新されていない人も多いようです。
 以降ではブロックチェーンについて簡単に説明していきます。
 
ブロックチェーンは所有を証明する技術
 「ブロックチェーンで何ができるの?」という質問に一言で答えるとすると、「ブロックチェーンは所有を証明する技術」となります。「所有を証明」といわれてもピンとこないと思いますので、順に説明していきましょう。
 
 
 「所有」とは、「自分のものとして持っていること」を指します。これは当たり前のことですが、実はデジタル上では実現できていませんでした。
 パソコンやスマートフォンなどで扱うデジタルデータの多くは、自分のものと思っていても、企業が管理するデータベースなどに保存されています。この場合、データの実質的な所有者は企業です。そのため、企業が提供するサービスに変更や停止などがあると、意図しない変更がデータに加えられたり、データが失われたりすることがありました。Web3.0では、ブロックチェーン技術により、ユーザーは自分のデータを「真」に所有できるようになります。これは従来のインターネットにはなかった変化です。ブロックチェーン技術で所有を証明できるようになったことで、データに「希少性」という新しい概念が生まれたのです。
 たとえば、デジタルデータで絵を描いた場合、これまでは誰かがあなたのデータを勝手に複製して配布することができました。これが、データを所有できるようになると、あなたの描いたデータはあなたの所有物となります。そして、複製データが配布されても元の所有者を証明できるので、それが偽物とわかります。また、所有物は誰かに渡すと、手元からなくなってしまいます。同様の物理的な制約が、所有するデータにも発生します。つまり、データを誰かに渡すと手元からなくなってしまうので、「渡してもいいですけど1万円をいただけますか?」などと、データの対価を要求するようになるのです。これはデータを「真」に所有できるようになったことの大きな変化です。
 
 
つまり、ブロックチェーン技術により、データに「希少性」という新しい概念が生まれました。所有を証明する技術が誕生し、データに希少性が生まれたことで、希少なデータが「資産」として認められるようになったのです。その希少なデータの代表的なものが、ビットコイン(BTC)と呼ばれる暗号資産です。
 
 
2.デジタル資産として認められ始めたビットコイン
ビットコインは発行枚数が決まっている
 ビットコインはデジタルデータでありながら、ブロックチェーン技術により発行枚数が決まっており、合計2,100万枚です。誰が何枚所有しているかが証明されているので、勝手に増やしたり減らしたりすることもできません。また、「人に渡すと自分のものがなくなる」という物理的な制約を持ち、模造品をつくることが難しく、投資商品としての金(ゴールド)に近い性質を持っていることから、ビットコインは「デジタルゴールド」と呼ばれています。
 
「 データ=資産」という新しい概念
 「資産」の意味を辞書で引くと、「個人・法人が所有できる土地・家屋・金銭などの資本に変えることができる財産」とあります。これまで所有ができなかったデジタル上のデータはここには含まれません。「データが資産になる」ということは、それだけ新しい概念であるということです。また、「資産=所有できるもの」という部分もポイントで、日本の法律上はデータのような無体物に所有権は認められていません。ブロックチェーン技術により「データ=所有できるもの」となってから日が浅いので、まだ法律が追いついていないのが現状です。
 
 
大企業や国のビットコイン購入事例
 データの資産化はさまざまなところで進んでいます。たとえば、米国のTesla(テスラ)やMicroStrategy(マイクロストラテジー)などの企業を中心に、デジタルゴールドであるビットコインを、企業の資産で買い集める動きがあります。海外企業は、ビットコインが供給量の限られた希少な資産であることを知っており、金(ゴールド)より有用なインフラのリスクヘッジ商品として購入しています。これは世界的なトレンドになっています。
 ビットコインを購入しているのは企業だけではありません。2021年6月には、エルサルバドルが自国の法定通貨をビットコインにすると発表しています。通貨の価値は、通貨を発行する国の「信用」に基づいて決まります。そのため、小さな国の通貨より大きな国の通貨が好まれる傾向があります。大きな国であれば、倒壊してなくなるリスクが低いためです。小さな国の経済基盤が内戦や経済危機などにより危うくなると、その国が発行する通貨は信用を担保できず、価値が暴落する事例は枚挙に暇がありません。通貨の価値が下落して紙切れ同然になってしまったジンバブエのような事例もあります。こういった背景があるため、経済的に弱い立場にある国ほど、自国通貨を発行して維持コストを負担するより、供給量が固定されていて、世界中の人々が平等に使えるビットコインを導入するインセンティブが高くなります。この傾向は実際、ビットコインの普及率を示す統計データにも現れており、ナイジェリアや南アフリカ、アルゼンチンなど、自国通貨の信用が高くない国がビットコイン普及率の上位を占めていることからもわかります。
 
 
出典:CurrencyWave(Mike Co)「Bitcoin Trend Compilation - Respondents with cryptoinvestments by country」をもとに作成
 
 ブロックチェーン技術でできるようになることは多岐にわたり、この節では説明を簡単にするために「所有を証明する技術」と意訳しましたが、ブロックチェーン技術の本質は技術ではなく思想にあります。ビットコインが生み出した「分散」を重視する思想は、権力や既得権益から遠い人たちから広がっていくボトムアップの革命と捉えることもでき、その思想が本書を読み進めることで理解できるはずです。
 
所有を証明する技術をさまざまな分野に応用
 所有を証明する技術を「通貨」に応用したものがビットコインですが、用途はそれだけではありません。所有を証明する技術はデジタルアートにも応用でき、クリプトアートやNFTといった分野では1つのデジタルアートが75億円の超高値で取引される事例も出ています。これらの事例は、デジタルデータを資産として「所有」できるようになったことによる変化です。ブロックチェーンはまだまだ新しい技術ですが、水面下では日々、新しい事例や活用方法が誕生しています。
 
 
 
まとめ
・ブロックチェーンは所有を証明する技術
・所有を証明する技術によってデジタルデータに希少価値が生まれた
・デジタルデータに希少価値が生まれたことで、デジタルデータが資産として認められ始めた
・資産価値のあるデジタルデータとして最も有名なものがビットコイン
・ビットコインは金(ゴールド)と特性が似ていることからデジタルゴールドと呼ばれ、大企業や国が買い集め始めた